
「新しい仕事を任された。でも、期待に応えられなかったらどうしよう」
「会議で意見を求められても、的外れだと思われそうで言葉が出てこない」
もっと力を発揮したい気持ちはあるのに、失敗や人の評価が気になって動けない。そんな自分を「気が弱い」「もっと自信を持たなければ」と責めていませんか。
仕事では、経験のあることをこなすだけでなく、新しい課題への対応や、より良い成果を求められます。結果が分からないことに取り組む以上、不安が生まれるのは自然なことです。
その不安を理解し、あるがままの自分を出発点にして、自分の力を育てていく。今回は、そのための考え方と、日常で試せる小さな一歩をお伝えします。
不安は、あなたを守ってきた働きでもある
不安には、将来の危険を予測し、備える役割があります。大切な会議の前に資料を見直す。慣れない仕事の注意点を確かめる。不安があるからこそ取れた行動も、これまでにあったのではないでしょうか。
脅威を感じると、心拍や呼吸が速くなり、筋肉が緊張することがあります。これは、危険に対処するための「闘争・逃走反応」に関わる身体の変化です。[1]
不安を感じる機能そのものは、私たちを支えてきた大切な働きです。ただ、不安の強さと、実際の危険の大きさは必ずしも一致しません。まだ起きていない失敗や、相手がどう思うか分からない場面にも、強く反応することがあります。
まずは「今、自分を守ろうとする反応が起きている」と気づくところから始めてみましょう。そのうえで、現実に何への備えが必要なのかを考えます。
失敗そのものより、「失敗した自分を見られること」が怖いとき
仕事の失敗が怖い理由は、人によって違います。実際の損失や責任が心配なこともあれば、「できない人だと思われる」「弱みを知られる」ことが怖い場合もあります。
過去に失敗を笑われた、強く否定された、周囲と比べられた。そうした経験から、「できないところを見せないようにしよう」と身構えるようになった方もいるでしょう。幼少期の対人関係での傷つきと、後の社交不安との関連を示す研究もありますが、背景は一人ひとり異なります。[2]
私はカウンセリングの中で、本人が受け入れ難いと感じている自分の一面を、人に知られることへの恐怖に出会います。
「人前で緊張する自分は駄目だ」
「分からないと聞くのは、能力がない証拠だ」
「失敗したら、自分には価値がない」
こうした思いが強いと、仕事に取り組みながら、同時に「駄目だと思う自分を隠すこと」にも力を注ぐようになります。
「鎧」を磨くことと、自分自身を磨くこと
私はこの状態を、クライエントに「自分を守る鎧を磨き続けているようなもの」と説明することがあります。

本当は分からなくても、分かっているように振る舞う。助けてほしくても、一人で抱える。相手が望んでいると自分が想像した人物像を、懸命に演じる。
その努力で評価されても、「次も期待どおりに振る舞わなければ」という緊張が続くことがあります。鎧の内側にある自分を受け入れられないままでは、評価を失う怖さも残りやすい。これは、私が臨床で大切にしている理解の一つです。
その鎧は、これまで自分を守るために必要だったのかもしれません。身につけてきた努力まで、否定する必要はありません。
ただ、これからは、自分自身を育てることにも力を使ってみてほしいのです。分からないことを認めて教わる。苦手なことを練習する。途中の考えを伝え、助言をもらう。そこには、今の自分を知ってもらう勇気が必要になることもあります。
自己受容は、今の自分を出発点にすること
メンタルプログレスでは、自己受容を、良い面も悪い面も、得意なことも苦手なことも含め、あるがままの自分を受け入れることと捉えています。
「今の自分は、人前では緊張する」
「この仕事の経験は、まだ少ない」
「認めてほしくて、無理をすることがある」
そうした面を持つ自分を認めたうえで、どうしていきたいかを考えます。
苦手さを認めれば、練習する課題が見えます。経験の少なさを認めれば、学ぶことや頼る相手を選べます。失敗した自分を受け入れられれば、その経験から次に生かすことを考えやすくなります。
自分を受け入れることと、自分を育てることは、つながっています。今の自分を出発点にできるからこそ、現実に合った一歩を選べるのです。
すぐに受け入れられなくても構いません。受け入れ難さを確かめながら、無理のない行動と振り返りを通じて、少しずつ取り組んでいきます。
限られた時間と注意を、何に使いたいでしょうか
一日は24時間。仕事に使える時間も、頭の中で一度に扱える情報も限られています。
「変に思われていないか」「失敗しないだろうか」と確認を続けていると、仕事そのものに向ける注意が分散することがあります。心配の強い人を対象とした実験でも、言葉で心配を続ける間、別の課題に使える作業記憶の余力が小さくなる結果が報告されています。[3]
さらに、緊張や心配が休息の時間まで続けば、心身の負担になります。長期的なストレスは、睡眠などの不調にも関わります。[1]「頑張っているのに疲れる」という感覚を、意志の弱さだけで片づける必要はありません。
一方、私たちには、価値のある結果を見越して行動し、その経験から学ぶ働きもあります。報酬に関わる脳の仕組みやドーパミンは、こうした学習や努力への意欲に関係します。人を対象とした研究でも、ドーパミンと、認知的な努力に向かう意欲との関係が示されています。[4]
ただし、将来を前向きに考えれば不安が消える、あるいは疲れなくなるという意味ではありません。
ここで試したいのは、「何を避けたいか」に加えて、「何を実現したいか」にも注意を向けることです。自分が望む方向を、日々の行動を選ぶ手掛かりにしていきます。
仕事の不安を、前進につなげる三つの問い
例えば、会議での発言が怖く、いつも黙ってしまうとします。次の三つを、短く書いてみてください。
① 今の自分と、必要な備えは?
「人前では緊張する。話を簡潔にまとめるのは苦手だ」と、今の自分を確かめます。そのうえで、伝えたい点を一つメモするなど、具体的な準備をします。「みんなに能力がないと思われる」は、確認できた事実なのか、自分の予測なのかも分けてみます。
② 自分は、何を実現したい?
「担当者として必要な情報を伝えたい」「少しずつ意見交換に参加できるようになりたい」。他者にどう見られるかだけでなく、自分が大切にしたいことを確かめます。
③ 今できる、小さな一歩は?
まずは話しやすい少人数の場で、メモした一点を伝えてみる。難しければ、事前に同僚に話してみる。負担に合わせて、取り組める場面を選びます。
終わった後は、「緊張したか」「褒められたか」だけで評価せず、「伝えられたこと」「予想と違ったこと」「次に試したいこと」を振り返ります。
例えば、「言葉は詰まったけれど、必要な情報は伝えられた」。この経験は、緊張する自分を受け入れながら、行動できた経験にもなります。うまくいかなかった場合は、準備や場面の難しさを調整します。
この三つの問いは、メンタルプログレスとして提案する実践の入口です。回数を競わず、自分に合うペースで試してみてください。
不安への対処を、その先の人生で使える力へ
私がカウンセリングで支えたいのは、不安が和らぐことに加えて、クライエントが自分に備わる力に気づき、自ら育てていけるようになることです。
自分を理解し、受け入れ、望む方向を考える。できることを試し、経験から学び、必要なら助けを借りて立て直す。その過程を自分のものにできれば、今後の困難に向き合う手掛かりにもなります。
もちろん、過重な業務やハラスメントなどがある場合には、環境の改善や相談が必要です。休むことや目標を調整することも、自分の未来を大切にする選択です。
クライエントが前進する姿から、私自身も学びます。変化する社会の中で、自分を育てることを共に楽しめる支援でありたい。それが、メンタルプログレスという名前に重ねている想いです。
今の自分を出発点に、どんな毎日をつくっていきたいでしょうか。そのために使える力を、一緒に見つけ、育てていきましょう。
仕事の不安や緊張、人の評価への怖さに悩んでいる方へ。メンタルプログレスでは、脳と心理の仕組みへの理解を助けながら、自己受容と、認知行動療法を基盤とする実践を通じて、ご自身が望む未来への前進を支援します。
参考文献・資料
[1]NCCIH. Stress.
[2]Brühl, A., et al. (2019). Child maltreatment, peer victimization, and social anxiety in adulthood: a cross-sectional study in a treatment-seeking sample. BMC Psychiatry.
[3]Leigh, E., & Hirsch, C. R. (2011). Worry in imagery and verbal form: Effect on residual working memory capacity. Behaviour Research and Therapy, 49(2), 99–105.
[4]Westbrook, A., et al. (2020). Dopamine promotes cognitive effort by biasing the benefits versus costs of cognitive work. Science, 367(6484), 1362–1366.

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