不安感情と感謝の関係──脳と心が教えてくれる「安心のつくり方」

不安や緊張が強いとき、「感謝なんてできない」と感じるのは自然なことです。けれど実は、感謝には脳の中で不安を鎮め、安心を取り戻す力があることが分かっています。本稿は全5章で、感謝という感情を ① 言葉と脳の仕組み② 不安との関係③ 日常での実践 からやさしくひもときます。


目次

第1章:感謝とは何か──人の脳に刻まれた「安心の記憶」

言葉としての感謝

「感謝」の「感」は“感じる”、「謝」は“あらわす”。つまり、感謝とは「感じた思いを外にあらわすこと」。英語の gratitude はラテン語 gratia(恵み・恩恵)に由来し、“受け取った優しさを大切に感じること”を意味します。感謝は礼儀ではなく、つながりを感じる心の機能です。

感謝が生まれる脳のしくみ

感謝を思い出すとき、脳では前頭前野報酬系が活性化し、セロトニンオキシトシンなど安心に関わる物質が分泌されます。これにより扁桃体(不安の中枢)の興奮がしずまり、心が穏やかになります。

進化的な意味

進化心理学では、感謝は「互いに助け合い、信頼を築く」ために発達した感情と考えられます。感謝を表すことは、協力関係を維持し、集団の安定を高める役割を担ってきました。すなわち感謝は、安心を生み出す生存本能でもあります。


第2章:感謝が不安をやわらげる理由──脳が安心を取り戻すしくみ

不安は危険を察知するサイン

不安は本来、生存のためのアラームです。ただ現代では「目に見えない不安」が多く、扁桃体が過敏になりがちです。

感謝は安心のスイッチ

感謝を思い出すと、脳の焦点が「欠けているもの」から「すでにあるもの」へ切り替わります。その瞬間に前頭前野が働き、扁桃体の過剰な興奮が落ち着きます。オキシトシンやセロトニンの作用も相まって、呼吸や心拍が整い、身体にも“安全”のメッセージが届きます。

要点: 感謝は不安を“消す”のではなく、安心を“増やす”ことで心のバランスを整える。


第3章:感謝できないときの心理──「それでも大丈夫」の理由

できないのは弱さではなく、脳の防御

「感謝したいのにできない」と感じるのは、あなたが冷たいからではありません。強い不安のもとでは扁桃体が働き、思考は“守り”に偏ります。これは自然な防御反応です。

無理にポジティブにならなくていい

「感謝しなければ」と自分にプレッシャーをかけるとかえって苦しくなることも。感謝は“努力”ではなく“気づき”から生まれます。まずは次のような小さな安心の瞬間を見つけてみてください。

  • 温かい飲み物が心地よかった
  • 誰かの優しい言葉を思い出した
  • 夕方の空が少しきれいだった

それだけで充分。小さな安心が、やがて感謝の芽を育てます。


第4章:感謝を習慣に変える3つの方法──小さな安心を積み重ねる

① 夜に「今日のありがとう」を3つ書く(感謝日記)

寝る前に、その日の「ありがたい」を3つ書き出すだけ。コーヒーの香り、メッセージの返信、無事に終えた1日──どんな小ささでもOK。続けるほど、脳は“安心の記憶”を強化します。

② 「ありがとう」を声に出す・誰かに伝える

言葉にすることで報酬系が働き、ドーパミンが分泌。相手とのやり取りを通じてオキシトシンも高まり、つながりと安心が深まります。

③ 自分自身に「ありがとう」を言う

「今日もよく頑張ったね」「ここまで来たね」と自分に声をかける。自己否定に傾きやすい思考がやさしく修正され、内なる安全基地が育ちます。

ポイント: 感謝の習慣は、まるで心の免疫力。不安にのみ込まれにくい土台をつくる。


第5章:感謝がもたらす心の再構築──不安克服とカウンセリングの関係

再評価(Reappraisal)が進む

感謝を続けると、以前は不安ばかりに目が向いていた状況のなかにも「支え」「つながり」「できていること」を見いだせるようになります。これは、脳の焦点が“危険”回路から“安心”回路へ再構築されているサインです。

CBT(認知行動療法)との相性

カウンセリングで行う認知行動療法(CBT)は、「出来事の捉え方(認知)」を整えていきます。感謝の視点はこの再評価スキルを後押しし、不安の中にも「安全の種」を見つけやすくします。

不安と共に、感謝を育てて生きる

不安はゼロにはなりません。だからこそ、不安を包み込むやわらかな力として感謝を育てる。これが、安心を取り戻す現実的で優しい方法です。


カウンセリングのご案内──安心をいっしょに育てる時間

感謝を感じられない日が続いても大丈夫です。不安が強いときこそ、ひとりで抱え込まず、「安心して本音を話せる場」を持ってください。メンタルプログレスのカウンセリングでは、脳科学とCBTをベースに「不安がどう生まれ、どう和らぐか」を一緒に整理します。焦らず、自分のペースで安心を育てるお手伝いをします。

初めてカウンセリングを受ける時、多くの方が不安をお感じになります。
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参考文献・出典

  • Emmons, R. A., & McCullough, M. E. (2003). Counting blessings versus burdens: An experimental investigation of gratitude and well-being. Journal of Personality and Social Psychology.
  • Fox, G. R., Kaplan, J., Damasio, H., & Damasio, A. (2015). Neural correlates of gratitude. NeuroImage.
  • Zahn, R., et al. (2015). The neural basis of human social values. Frontiers in Psychology.
  • Algoe, S. B. (2012). Find, remind, and bind: The functions of gratitude in everyday relationships. Emotion Review.
  • Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity.
  • Beck, J. S. (2011). Cognitive Behavior Therapy: Basics and Beyond.

免責・注意書き

  • 本記事の内容は医療診断・治療に代わるものではありません。強い不安・抑うつが続く場合は専門家へご相談ください。
  • 本文はオリジナル解説で構成し、研究結果の引用は出典明示のうえ要約で記載しています。他者作成の図表や画像は無断転載していません。

苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
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この記事を書いた人

職場や生活で強い不安やストレスを抱えてお悩みのあなたを、企業経験30年(人事労務を担当した15年ではメンタル不調者への産業医と連携した対応経験が豊富)、メンタルクリニックでの患者さんへのカウンセリングによる支援、社外メンターとしての成長支援、SNS相談員として命と心、LGBTQなどの相談対応などの経験をベースにサポートいたします。

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