職場のストレスが心と体を壊す理由──“闘争・逃走反応”によるストレスホルモンの過剰分泌

仕事が終わっても頭が休まらない。怒りっぽくなったり、涙が出たり、朝から心が重たい──。

「こんなことでメンタルが乱れるなんて、自分は弱いのかも…」と思っていませんか?
でも、実はその不調、あなたの意志の弱さではなく、 脳の仕組み に原因があるのです。

この記事では、職場のストレスがどのように脳と身体に影響を与え、やがてメンタル不調へとつながっていくのか。そのメカニズムと対処のヒントを、 脳神経科学 と心理学の視点からお伝えします。

1. 闘争・逃走反応とは何か?(脳神経科学的な背景)

人間の脳はストレスを感じると、「 扁桃体 」が危険信号を出し、自律神経の中でも“交感神経”を活性化させます。

これは「 闘争・逃走反応(fight-or-flight) 」と呼ばれ、もともとは敵や危険から命を守るための反応です。

このとき、呼吸が浅くなり、心拍数が上がり、筋肉が緊張し、不要な胃腸の働きを抑え、全身が「いつでも戦える状態」へと切り替わります。そして、内分泌系では ストレスホルモン である コルチゾール が大量に分泌され、脳も体も短期的に“非常事態モード”に入ります。

2. ストレスによる「脳と身体の暴走」はこうして起こる

コルチゾールの働きとそのリスク

● 血糖値の上昇

コルチゾールは、エネルギー源となる糖(グルコース)を血中に放出させ、体を緊急対応モードにします。

しかしこれが長期間続くと、

  • 空腹感の異常(過食、甘い物の欲求)
  • インスリン抵抗性の悪化 → 糖尿病リスクの上昇
  • 血糖値の慢性的な上昇
    糖尿病などの病気を引き起こすだけでなく、心筋梗塞、脳梗塞、腎症、網膜症などの合併症のリスクも高めます。また、近年では認知症やがんとの関連性も指摘されています

● 免疫の抑制

短期的には炎症を抑えるコルチゾールですが、長期的には免疫機能を抑えてしまいます。

  • 風邪やウイルスにかかりやすくなる
  • 疲れが抜けにくい、治りが遅い
  • アレルギーや自己免疫疾患が悪化しやすくなる

● 脳へのダメージ

  • 海馬の萎縮 (記憶力の低下、感情の不安定化)
  • 前頭前野の働きの低下 (集中力、判断力の低下)
  • 扁桃体の過敏化 (不安・怒りの過剰反応)

脳がストレスを受けすぎると、「さらにストレスを感じやすい脳」に変わってしまうのです。

3. 脳の仕組みを知れば、「自分を責めなくていい」と思える

こうした不調は、決して“心が弱い”せいではありません。むしろ、 脳があなたを守ろうとして過剰に働いている 証拠です。

脳の働きを理解することで、

  • 「私はおかしくなっているわけじゃない」
  • 「ちゃんと理由があるから整えてあげよう」

と、自分に優しくなれます。

4. 小さな対処で、脳と身体は落ち着きを取り戻す

ストレス反応を“リセット”するには、脳や身体に「もう危険はないよ」と伝えることが大切です。

  • 深呼吸 :息を吐く時間を長くすることで、副交感神経を優位に
  • 安心の言葉 :「私は今、安全な場所にいる」と声に出してみる
  • 自然と触れる :光、風、音、香りなど五感を整える
  • 話す :本音を言える相手に話すだけでも、脳の感情中枢が落ち着く

これらはどれも簡単なことですが、積み重ねが脳の反応パターンを書き換えていく力になります。

5. 結び

職場のストレスが強すぎると、脳は命を守るために「危険反応」を出し続けてしまいます。ですが、その反応は“異常”ではなく、“正常な脳の働き”なのです。

だからこそ、自分のメンタル不調を責めず、脳の仕組みに気づくこと。そこから、整える道が始まります。

必要であれば、ひとりで抱え込まずに、専門家と一緒に整えていきましょう。あなたの脳と心には、回復する力が、まだちゃんと残っています。

苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

職場や生活で強い不安やストレスを抱えてお悩みのあなたを、企業経験30年(人事労務を担当した15年ではメンタル不調者への産業医と連携した対応経験が豊富)、メンタルクリニックでの患者さんへのカウンセリングによる支援、社外メンターとしての成長支援、SNS相談員として命と心、LGBTQなどの相談対応などの経験をベースにサポートいたします。

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