
大事なプレゼンの前、初対面の人と話すとき、満員電車の中……
「手のひらにじんわり汗がにじむ」「シャツの脇が気になって落ち着かない」そんな時に汗が止まって欲しいと思えば思うほど、汗が止まらなくなってしまう・・・
そんな経験が続くと、「自分っておかしいのかな・・・」「体質で治らないんじゃないかな・・・」と、不安になることもあるかもしれません。
しかし、実はそれ、「緊張による汗」かもしれません。
もしそうなら、その汗は“心の反応”として出ている自然なものなんです。
緊張による汗と運動による汗・・・何が違うの?
運動して出る汗ではない、”心の反応”つまり、緊張による汗とは何なのでしょうか
それは「精神性発汗」と言い、運動する時に出る「温熱性発汗」とは全く違ったもので、
その違いを下の表にまとめました。
比較項目 | 緊張の汗(精神性発汗) | 運動の汗(温熱性発汗) |
---|---|---|
きっかけ | 緊張・不安・恐怖など | 運動・暑さなど体温の上昇 |
部位 | 手のひら、足の裏、脇に多い | 全身から出る |
性質 | 急に出る、ベタつく | じんわり出て、サラサラしている |
精神性発汗とは何か?
精神性発汗とは、緊張・不安・恐怖など、感情の刺激によって出る汗のこと。
主に「手のひら」「足の裏」「脇の下」など、限られた場所に現れます。
この現象は、現代では「困った汗」「止まらない汗」と思われがちですが、進化の視点で見ると、命を守る“緊急対応システム”だったのです。
手汗──生存を助けた「すべらないための汗」

手のひらに汗をかくとき、それは「何かに備えているサイン」です。
- 狩りをするときに武器をしっかり握る
- 木を登って逃げるときに滑らないようにする
- 敵との格闘中にグリップ力を高める
つまり、手汗は我々の祖先が樹上生活をしていたお猿さんだった頃に、「闘う・逃げる」という緊急時に
木の幹や蔦を「しっかり握る」ために必要だった汗なのです。
この汗をかく機能を持っていた祖先は生存確率が高くなり、子孫を残すことができたわけなんです。
その結果、この機能は現代の私たちにも受け継がれました。
脇汗──体温調整と、存在の“におい”を伝える役割

脇の下から出る汗には、もうひとつ違う意味があります。
- 脇は体幹に近く、体温を急速に下げるために効率が良い
- 同時に、ストレス時のアポクリン汗腺から出る汗には「におい成分」が含まれる
この“におい”は、群れで生きていた祖先にとって、
「仲間に危険を知らせるフェロモン」のような役割を果たしていたとも言われています。
つまり脇汗は、「熱を逃がす」+「仲間への非言語的警戒サイン」として進化した、生存のための発汗だったのです。
なぜ今、それが“困る汗”になってしまったのか
現代では、私たちの命はプレゼンや会話で脅かされることはありません。
しかし、脳は未だに「人前=危険かも」と錯覚することがあります。
その結果、
➡️ 脳が「闘うか、逃げるか」のモードに入り緊張状態を創り始める
➡️ 手汗・脇汗を出して準備を始めてしまう
これが「精神性発汗」が起こるメカニズムです。
逃走反応について詳しくお知りになりたい方は、下のボタンをクリックして解説をお読みいただければと思います。
思考が作る“感情”が緊張の引き金・・・ならば、“思考”がカギになる
ここで大事なのは、「汗が出ること」が問題なのではなく、
その手前の「緊張という状態」が発汗を引き起こしているということです。
そして、その感情はしばしば次のような自動思考から来ています:
- 「また汗をかいてしまう…」
- 「汗を見られたらどうしよう」
- 「この場から逃げたい…」
でも実は、これらの考え方は意識的に変えていくことが可能です。
それが、認知行動療法(CBT)による「思考の変容」です。
汗が出ることより、「汗を気にする」思考が問題に?
多汗に悩む方の多くは、汗が出るもしくは、出そうな状況になると「汗が出たらどうしよう」「また恥ずかしい思いをするかも」といった思考に陥り、そして不安になり緊張状態を創り出してしまうので、さらに汗が出てしまう悪循環に陥ってしまうのです。
認知行動療法(CBT)による「緊張による汗」の克服

この悪循環を断ち切るには、「汗=困るもの」という思考を見直すことがカギです。
認知行動療法では以下のようなアプローチを取ります:
- 自動思考の書き換え:「また汗をかくかも」→「かいても大丈夫。命に関わるわけじゃない」
- 暴露法:少しずつ汗が出る状況に慣れていく練習
- 注意の方向転換:「汗」に意識を向ける代わりに、「相手の話」や「空間」に集中する
認知行動療法にご興味のおありになる方は、下のボタンをクリックして解説をお読みいただければと思います。
最後に──「汗」は敵じゃない。生き残る力だった。
これまでみてきたように、精神性発汗は進化の過程で我々の命を守るために獲得してきた大切な機能。
しかし、現代の私たちにとっては、過剰な反応になってしまうこともあ多々ありますね・・・
その“過剰”を、優しく整えていくには、「汗をコントロールしよう」と力むより、
「不安と緊張を煽る“思考”と向き合っていく」ことが、もっとも効果的です。
我々が進化の過程で発揮してきた環境適応能力、「変われる力」を味方にして、不要な「手汗」と「脇汗」を克服してみませんか?

苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
お気軽にご相談ください。
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