導入:なぜ「愛着」が子育てで大切なのか

子育てをしていると、「この関わり方で大丈夫だろうか」「子どもが将来、人間関係で困らないだろうか」と不安になることはありませんか?
私が臨床の現場で多くの大人の相談にのってきた経験から言えることは、社会人になってからの不安や緊張の背景には、幼少期の愛着形成が大きく関わっているケースが多いということです。
子育ての目標は「子どもが自分の力で社会を生きていけるようになること」。
その土台となるのが「愛着形成」です。親からの安定した愛情を通じて、子どもは自分を信じ、他人を信じる力を育んでいきます。
愛着形成とは何か
子育てでよく「愛情を注いで育てましょう」と言われます。
けれど、具体的に「愛情を注ぐ」とはどんな行動のことを指すのでしょうか。
愛情を注ぐ4つの具体行動

- 安心基地になる
子どもが泣いたら抱っこする、声をかけたら応えてあげる。
その繰り返しが「予測できる安心感」となり、子どもの脳に「困ったら助けてもらえる」という回路をつくります。
これが将来のストレス耐性の土台になります。 - 存在そのものを肯定する
「できたこと」だけでなく「あなたがいてくれるだけで嬉しい」と伝える。
子どもは「自分は大切な存在だ」と感じ、それが自己肯定感につながります。 - 感情に共感する
「悔しかったんだね」「嬉しいんだね」と気持ちを言葉にして受け止める。
これにより子どもは自分の感情を理解し、コントロールする力を少しずつ身につけていきます。 - プロセスを認める
テストの点や結果だけでなく、「頑張った過程」や「工夫したこと」をほめる。
その経験は「努力が報われる」という感覚を育み、挑戦する力を強めます。
人格形成への影響
こうした積み重ねが、人格形成の大切な土台になります。
- 幼少期に「安心して依存できた」経験は、青年期以降の「他者を信じ、協力できる力」に直結します。
- 愛情が安定して注がれると「自分は大切な存在だ」という感覚(自己効力感)が形成され、自分を信じて挑戦できる大人に育ちます。
- 逆に、愛情が不安定だった場合は「人を信じられない」「失敗を過度に恐れる」傾向が強くなり、不安感情に悩みやすくなります。
つまり、愛着形成とは「親が子どもの安心基地となり、存在と感情を受け止め、努力を認めること」。
それがやがて、子どもが社会に出て自分の力で生きるための自己信頼と他者信頼の基盤となるのです。
(参考:ジョン・ボウルビィの愛着理論、岡田尊司『愛着障害』、エリクソン発達課題「基本的信頼 vs 不信」)
ここで、少し立ち止まって考えてみてください。
- あなたが子どもに接するとき、どんなときに「安心基地」になれているでしょうか?
- これから子育てをするなら、どんな言葉や態度で「存在を肯定する」ことができるでしょうか?
子どもにとっての愛着は、日々の小さなやり取りの積み重ねで育まれます。
「愛情を注ぐ」とは、特別なことではなく、あなたが日々どう関わるかを意識することから始まるのではないでしょうか?
愛着障害とは
ではもし、この愛着形成がうまくいかなかった場合はどうなるのでしょうか。
子どもは「人を信じていいのか」「自分は大切にされる存在なのか」という根本的な安心感を持ちにくくなります。
その結果、自己肯定感や人間関係の築き方に困難を抱えることがあります。
これが「愛着障害」と呼ばれる状態です。
愛着障害とは、幼少期に安定した愛着が築けなかったことで、対人関係や自己理解に課題を抱える状態を指します。
医学的な診断名ではなく、心理学的な概念ですが、大人になってからの不安障害や対人関係の悩みに深く関わっていると考えられています。
主な特徴
- 不安型:過度に相手の反応を気にし、拒絶を恐れる
- 回避型:人との距離を置き、心を開かない
- 混合型:近づきたい気持ちと拒絶の恐れの間で揺れ動く
大人になって現れる影響
- 人の評価を気にしすぎて疲れる
- 親密な関係を築くのが苦手
- 「どうせ自分なんて」と思ってしまう
愛着障害は、決して「親のせい」と責めるための言葉ではありません。
むしろ、「愛着がうまく築けなかった経験が、その後の生きづらさにつながることがある」という理解のための概念です。
エリクソンの発達課題との関連
心理学者エリクソンは、人の一生を8つの発達段階に分け、それぞれに「乗り越えるべき課題」があるとしました。
その中でも、幼少期における課題は愛着と密接に関係しています。
- 乳児期(0〜1歳):基本的信頼 vs 不信
親が安定して応答してくれると「世界は信頼できる」と学びます。
逆に放置や拒絶が多いと「世界は不安定で危険」と感じてしまいます。 - 幼児期(1〜3歳):自律性 vs 恥・疑惑
子どもが自分でやろうとする姿を支えることで「自分でできる」という自信が育ちます。
過度に否定されると「どうせ自分はできない」と疑い、挑戦心を失います。 - 学童期(6〜12歳):勤勉性 vs 劣等感
努力や工夫を認めてもらえると「やればできる」という感覚が芽生えます。
無視されたり結果だけで評価されると、劣等感を抱えやすくなります。 - 青年期(12〜18歳):自我同一性 vs 役割混乱
信頼できる土台があると、自分の生き方や価値観を模索できます。
愛着が不安定だと「自分は何者なのか」という問いに迷い込み、混乱を深めやすくなります。
このように、愛着はエリクソンの発達課題の達成を支える基盤となっています。
愛着形成が安定していると、発達段階ごとの課題を乗り越えやすくなり、逆に不安定だと課題がこじれて次の段階に影響を及ぼすのです。
参考にした人物について
- 岡田 尊司(おかだ たかし)
精神科医、作家。『愛着障害』『母という病』など著書多数。愛着の問題を日本社会に広めた第一人者の一人。精神医学の知見をもとに、親子関係や発達課題が大人の生きづらさにどう影響するかをわかりやすく解説している。 - エリク・ホーンブルガー・エリクソン(Erik H. Erikson, 1902–1994)
デンマーク生まれの発達心理学者・精神分析家。フロイトの理論を発展させ、人の一生を8つの発達課題として整理した。特に「基本的信頼 vs 不信」の概念は、愛着理論と深く結びつき、子育てや教育の分野で広く影響を与えている。
まとめ
- 愛着形成は、子どもが「安心できる存在」に出会い、自己信頼と他者信頼を育むプロセス。
- その積み重ねが人格形成の土台となる。
- 愛着障害は病名ではなく、理解を深めるための心理学的な概念。
- エリクソンの発達課題とも深くつながり、子どもの成長のあらゆる段階に影響を及ぼす。
子育てに完璧はありません。
大切なのは「今日からできる小さな愛情の積み重ね」です。
その関わりが、子どもの未来を支える大切な土台となると思うのです。

苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
お気軽にご相談ください。
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