近年、「心理的安全性」という言葉が、企業経営や人事の現場で広く使われるようになりました。
ハラスメント対策、メンタルヘルス不調の予防、離職防止・・・
その背景にある問題意識は極めて妥当であり、重要なものです。
一方で、現場で管理職や社員と向き合っていると、次のような違和感を覚えることがあります。
心理的安全性の議論は行われているが、個人が仕事で直面するプレッシャーを克服するための「メンタルタフネス=勇気」への取り組みが、置き去りにされていないだろうか。

組織の心理的安全性を高めるために人間関係を整えることは確かに重要です。
しかし、企業価値を高める仕事ほど、不確実性が高く、責任も重く、失敗の痛みも大きくなります。
その現実を前にしたとき、心理的安全性だけで、人は本当に挑戦し続けられるのでしょうか。
この記事では、心理的安全性の本来の意味を整理したうえで、強い組織に欠かせない「個人の勇気(メンタルタフネス)」との関係について考えていきます。
心理的安全性が注目される背景
― ハラスメント対策と安全配慮義務の文脈 ―
心理的安全性が注目されるようになった背景には、ハラスメント問題の顕在化や、企業に求められる安全配慮義務の強化があります。
社員のメンタル不調を放置することは、人的リスクであると同時に、経営リスクでもあります。
この流れの中で、「心理的に安全な職場づくり」が重要視されるようになったこと自体は、極めて自然で、必要な流れだと言えるでしょう。
心理的安全性が「誤解」される現場の落とし穴
ただし、その議論が広がる過程で、心理的安全性が次のように単純化されて語られてしまうケースが、実務の現場では少なからず見受けられます。
- × 人を傷つけないこと(過度な配慮)
- × 厳しいことを言わない(フィードバックの欠如)
- × 波風を立てない(現状維持の推奨)
本来、心理的安全性とは、「対人関係のリスクを取っても、排除や報復を受けない状態」を指す概念です。

衝突を避け、ネガティブな情報を隠蔽する「何も言わない職場」は、心理的安全性が高いのではなく、単に「ぬるま湯(アパシー)」の状態にあると言わざるを得ません。
これは、心理的安全性そのものの問題ではなく、解釈と運用の問題だと言えるでしょう。
心理的安全性が生み出す管理職の悩み
― 管理職は「必要なこと」を伝えられなくなっていないか ―
ここで、一つ問いを投げかけたいと思います。
心理的安全性を意識するあまり、管理職が「必要なこと」「厳しいこと」を伝えにくくなってはいないでしょうか。
心理的安全性の提唱者であるエドモンドソン教授も、成果を出すためには「高い心理的安全性」と同時に「仕事への高い基準(アカウンタビリティ=結果に対する責任)」が必要であると説いています。
現場で以下のような兆候があれば注意が必要です。
- 指摘や期待が減り、現状肯定ばかりになる
- 判断が先送りされ、責任の所在が曖昧になる
- 「嫌われたくない」という思いからフィードバックを控える
人は、期待や負荷のない環境では、リスクを取らなくなるのが自然です。
結果として、エンゲージメントや主体性が低下していくという皮肉な現象が起こります。
リスクを取らなくなるのが自然だからです。
「心理的安全性」の本質を考える
企業が目指す企業価値の向上という視点で考えると、心理的安全性の本質は、「優しさ」や「遠慮」とはなり得ません。
心理的安全性とは、
- 意見を言える
- 分からないことを相談できる
- 失敗を早く共有できる
そうした行動が、評価や人間関係の不利益につながらないという信頼がある状態です。
重要なのは、心理的安全性は仕事の難しさやプレッシャーを取り除く仕組みではないという点です。
企業価値を高める仕事そのものは、依然として難しく、責任も、期待も、重く存在し続けます。
心理的安全性の土台にある「信頼関係」

心理的安全性の根底には、組織メンバー同士の信頼関係があります。
ここで言う信頼とは、仲が良いことや、気を遣い合うことではありません。
- 必要なことを、必要なタイミングで伝える
- 困難な場面でも、逃げずに向き合う
- 失敗したときに、責任を引き受ける
こうした行動の積み重ねが、「この人は信頼できる」という感覚を少しずつ育てていきます。
そして、組織が本当の意味で強くなるのは、単に雰囲気が良いときではありません。
苦しい局面で助けを求められること。
得意なことを持ち寄り、組み合わせられること。
苦手なことや弱さを、補い合えること。
これらが機能している組織は、一人ひとりの限界を、組織として超えることができます。
逆に、信頼関係がない組織では、人は弱さを隠し、助けを求めず、結果として個人も組織も脆くなっていきます。
信頼関係とは、「仲が良い状態」ではなく、困難な状況で協力が起きる構造そのものです。
心理的安全性は、この構造を支えるための土台であり、組織が強くなるための前提条件だと言えるでしょう。
強い組織に必要なのは「心理的安全性+個人の勇気」

ここで必要になるのが、個人の側の力です。
企業価値を高める仕事ほど、量が多かったり、高度な知識やスキル、スピードが要求され、不安や恐怖をといったプレッシャー伴います。
それは、心理的安全性が確保されていても、消えるものではありません。
だからこそ必要なのが、不安や恐怖を抱えながらも、やるべき行動を実行する個人の力。
私はこれを「勇気」、あるいはメンタルのタフネスと呼んでいます。
勇気とは、恐れないことではありません。不安をゼロにできることでもありません。
この点については、勇気を「特別な性格」ではなく、誰もが持っている力として定義した
▶ 「勇気のない人なんているのかな?」
https://mental-progress.com/what-is-courage
の記事で詳しく整理しています。
また、勇気は「考え方」だけで生まれるものではなく、小さな行動による成功と、失敗からの回復の積み重ねによって育つものです。
その具体的な考え方については、
▶ 「勇気の作り方 ― 不安や恐怖を抱えながら行動するために」
https://mental-progress.com/courage-exposure-therapy/
で解説しています。
心理的安全性と勇気が噛み合うとき、企業価値は高まる

心理的安全性と個人の勇気が噛み合ったとき、組織力の最大化が始まります。
- 心理的安全性があるからこそ、人は不安を抱えたままでも相談し、挑戦できる。
- 勇気を持つ個がいるからこそ、組織は困難な課題に立ち向かい、学習し成長を続けられる。
不安をゼロにしようとするのではなく、「不安と付き合いながら行動できる状態」を組織全体で作ることが、持続可能な成長への近道です。
不安そのものの捉え方については、
▶ メンタルプログレスのブログ記事一覧
https://mental-progress.com/category/blog/
の中で、「不安は危険回避に必要なもの」という視点から、
繰り返し解説しています。
組織と個人、両方に目を向けるということ
― 心理的安全性は「企業価値を高める手段」である ―
心理的安全性は、それ自体がゴールではありません。企業価値を高め、社会に貢献するための「手段」です。
また、個人にメンタルの強さを求めることは、決して根性論ではありません。
適切な組織環境(心理的安全性)の中で、個人が正しく鍛えられる。
この循環こそが、真に強い組織を作ります。
メンタルプログレスでは、管理職研修やカウンセリング、メンタリングを通じて、「心理的に安全で、かつ挑戦が止まらない組織」への変革を支援しています。
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その一助になれば幸いです。
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