想像力はなぜ人を進化させたのか?【後編】― 将来展望を“設計力”に変える脳の使い方 ―

前編では、想像力が「記憶の再構成」であり、未来予測という機能が人類の進化を支えてきたことを見てきました。

未来を想像することは、過去の記憶を組み立て直すこと。
この力は、不確実な環境で生き延びるための生存戦略でした。

しかし同時に、想像力は諸刃の剣でもあります。
まだ起きていない未来を「きっと悪くなる」と固定してしまうこともできるからです。

では、この進化の力を、私たちはどのように使えばよいのでしょうか。


目次

メンタル不調は「未来の固定化」から始まる

ネガティブな想像そのものが悪いわけではありません。
リスクを予測する力は、生存に必要な能力です。

問題は、まだ決まっていない未来を、ひとつの最悪シナリオに固定してしまうことです。

不安が慢性化すると、行動が止まり、自己効力感が下がっていきます。
こうした構造については、前頭前野の働きと不安の関係を解説した記事でも触れています。

脅威に意識が偏ると、扁桃体*1の活動が優位になり、前頭前野*2の柔軟な思考が働きにくくなります。
未来が「可能性」ではなく「確定」に見えるとき、私たちは選択肢を失います。

その固定をほどく起点が、メタ認知です。

*1扁桃体
脳の奥深くにあるアーモンド形の神経細胞の集まりで、恐怖や不安、怒りなどの「感情(情動)の司令塔」です。

*2前頭前野
額の裏側にある「脳の司令塔」です。思考、記憶、感情のコントロール、意思決定、行動の抑制など、人間らしい知的で理性的な活動を司る、最も高次な領域です。


すべての起点はメタ認知

メタ認知とは、自分の思考に気づき、選び直す力です。

「これは事実か、それとも予測か?」
と問い直すこと。

前頭前野や前帯状皮質*3は、この自己調整機能に関わることが示されています。

しかし、気づくだけでは未来は変わりません。
方向が必要です。

そこで重要になるのが、明るい将来展望を描くことです。

職場でこの視点が共有されると、心理的安全性も高まりやすくなります。
未来が脅威ではなく可能性として語られるからです。

*3前帯状皮質
脳の真ん中、前の方に位置し、自分のミスや葛藤に気づき、感情を落ち着かせながら、正しい行動へ導く『心の司令塔』です。 


メンタルプログレスの将来展望モデル

① 明るい将来展望を描く(軸づくり)

まず、「どんな未来を生きたいか」を描きます。

未来を具体的に思い描くとき、デフォルトモードネットワーク(DMN)が働き、記憶と想像が結びつきます。

明るい将来展望は、楽観ではありません。
方向づけです。

未来が「怖いもの」から「向かうもの」に変わるとき、脳は接近モードへと切り替わります。

接近モードとは、脅威から身を守る防衛的な状態ではなく、目標に向かって行動を選択しようとする状態です。
神経科学的には、前頭前野が主導権を握り、ドーパミン*4系が動機づけを支える状態といえます。

未来が可能性として見えたとき、人は前に進む余裕を持てます。

*4ドーパミン
脳内で「快感」「やる気」「運動機能」をコントロールする、いわば脳の「ごほうび&やる気スイッチ」物質です。目標達成時などに分泌され、喜びを感じさせ、さらに同じ行動を繰り返す「意欲」を生み出します。


② リスクを戦略化する

次に、その未来を阻む可能性を考えます。

ただし、順番が重要です。
明るい未来を描いた「後」に、リスクを考えること。

ネガティブな想像は、不安ではありません。
明るい未来の実現確率を上げるための準備と考えるのです。

リスクを想像することは、未来を壊す行為ではなく、未来を守るための設計=リスクヘッジです。

この順番で考えると、ネガティブな想像は「脅威」ではなく「リスクヘッジの戦略」になります。

反対に、ネガティブな未来から思考を始めてしまうと、「そのリスクを避けるための別のリスク」を考え始め、さらに不安が増幅します。
そして明るい未来を考える余裕そのものを失ってしまいます。

この思考する順番は、思考の質を決めるとても大切な要素なのです。


③ 行動で検証する

設計が整うと、小さな行動が生まれます。

もちろん、行動には勇気が必要です。
不安や恐れを感じることは自然なことだからです。

しかし、明るい将来展望という軸があるとき、その小さな行動の一歩は意味を持ちます。

小さな行動は、未来を試す実験として考えみましょう。
成功だけを期待する必要はありません。


④ 成功も失敗も材料にする

小さな成功は確信を育てます。
小さな失敗は修正点を教えてくれます。

神経科学では、予想と現実のズレが学習を促進することが知られています。
これを「報酬予測誤差」と呼びます。

「思ったより大丈夫だった」
「致命的ではなかった」

その体験が、脳の未来モデルを書き換えます。

この仕組みは、人前に出ると感じる不安と緊張を脳科学的に解説した記事でも詳しく扱っています。

小さな行動の失敗は未来を壊すほど威力はありません。
未来を具体化するための大切なピースになるのです。


⑤ 未来モデルを更新する

成功も失敗も取り込みながら、未来の設計図を描き直す。
この循環こそが、成長です。


それは、脳のPDCAでもある

この流れは、ビジネスで馴染みのあるPDCAにも重なります。

明るい未来を描く → Plan
行動する → Do
振り返る → Check
更新する → Act

私たちの脳は、もともとこの循環で学習する構造を持っています。

ただし大切なのは、「達成目標」ではなく、「どんな未来を生きたいか」から始めることです。

ここに、メンタルプログレスが大切にしている将来展望の意味があります。


将来展望モデルを生活に活かすヒント

もしこの考え方がしっくりくるなら、こんな問いを静かに持ってみてください。

・どんな未来を生きたいだろうか
・その未来を守るために何を備えられるだろうか
・最近、「思ったより大丈夫だった」ことは何だろうか

考えること自体が、未来設計の第一歩です。


人が元気になり、企業が元気になり、社会が元気になる

想像力は、人類を進化させてきました。
その力は今も、私たちの中にあります。

明るい未来を描くこと。
そして失敗さえも未来の材料にすること。

その循環が、人を元気にし、企業を元気にし、社会を元気にする。

未来は偶然やってくるものではありません。
設計し、修正し、育てていくものです。

私たちの脳は、そのための構造を、すでに持ってい流のです。

苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
お気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

職場や生活で強い不安やストレスを抱えてお悩みのあなたを、企業経験30年(人事労務を担当した15年ではメンタル不調者への産業医と連携した対応経験が豊富)、メンタルクリニックでの患者さんへのカウンセリングによる支援、社外メンターとしての成長支援、SNS相談員として命と心、LGBTQなどの相談対応などの経験をベースにサポートいたします。

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