はじめに
分かっている。
やらなければならないことも、求められている方向性も。
育児や介護と仕事の両立を支える必要性について、経営者であればすでに十分ご存じだと思います。
育児・介護休業法に基づき、制度を整え、社員が安心して働き続けられる環境をつくることが企業に求められている。
それは、今さら説明されるまでもない話でしょう。
それでも、正直なところ怖い。
制度に沿って対応すればするほど、現場の業務負荷が増え、管理職が疲弊し、結果として業績を悪化させてしまうのではないか。
そうなれば、会社も社員の生活も、どちらも守れなくなるのではないか。
このジレンマに挟まれている経営者は、決して少なくないはずです。
だからこそ本記事では、「正しいかどうか」ではなく、「どうすれば現実的に続けられるか」という視点で考えていきます。
育児・介護の問題は、社員から管理職へと負荷が連鎖する

育児や介護の問題が起きたとき、最初に大きな負担を抱えるのは、間違いなく当事者である社員です。
生活と仕事の両立に悩み、先の見えない不安を抱え、それでも職場に迷惑をかけまいと、ぎりぎりまで踏ん張る。
そして、その状況が職場で共有された瞬間から、管理職もまた、別の苦しさを背負うことになります。
成果は求められる。
一方で、部下の事情も分かっている。
ところが、経営の方針や判断軸は明確に示されていない。
この状態で判断を迫られた管理職は、迷い、抱え込み、誰にも相談できないまま疲弊していきます。
現場は善意と我慢で何とか回そうとしますが、それは長く続くやり方ではありません。
育児・介護の問題は、社員個人の問題であると同時に、管理職を守れるかどうかという経営の問題でもあるのです。
「何も起きていないように見える状態」が一番コストが高いかもしてない

経営的に最も見えにくく、しかし最もコストがかかる状態があります。
それは、育児や介護を抱えた社員が、何も言わずに働き続けている状態です。
経営の立場から見ると、次のような「見えないコスト」が、静かに積み上がっていきます。
【注意すべき「見えないコスト」】
・プレゼンティーイズム
出社はしている。
しかし、心身の不調や悩みを抱えたまま働き、生産性が著しく低下している状態。
・突然の離職
限界まで抱え込み、ある日突然「もう続けられない」と判断し、介護離職を選択する。
・負の連鎖
その様子を見た周囲の社員、特に優秀な若手が、
「この会社では長く働けない」と感じ、静かに距離を取り始める。
人件費は変わらないのに、成果だけが少しずつ落ちていく。
これは経営にとって、最も効率の悪い状態です。
安全配慮義務という言葉があります。
社員が安全に、心身をすり減らさずに働ける環境を整えることは、企業の責任だとされています。
しかしこの義務は、経営者を縛るためのものではありません。
本来は、こうした静かな異変に気づき、問題が大きくなる前に手を打つための、経営判断の指針なのです。
分かっていても、動けなかったという現実

私自身、経営に携わる立場として、「分かっていても、動けない」という状況を経験しました。
期中に人材採用を前提とした予算を組んでいない。
業績も思うように伸びていない。
そんな中で、育児や介護によって現場が一時的に手薄になる。
本来であれば、人を補う判断ができればよい。
しかし、予算も余裕もない。
結果として、「残されたメンバーで何とか乗り切るしかない」という判断になってしまう。
それが現実的な判断であることは、頭では分かっています。
一方で、現場が少しずつ疲弊していく様子を見ながら、十分な手が打てないことに、強いもどかしさを感じていました。
今振り返って思うのは、これは個々の判断の良し悪しではなく、育児や介護を「例外」として扱っていた経営構造そのものの問題だったということです。
経営の仕事は、すべてを完璧に予測することではありません。
しかし、一定の確率で起こることを「起こり得る前提」として織り込むことはできる。
そう考えるようになってから、育児や介護への向き合い方は、「配慮」ではなく「経営設計の一部」なのだと捉え直すようになりました。
育児・介護に向き合う企業は、「人を増やして」成長しているわけではない

育児・介護に理解のある企業というと、「人件費をかけられる余裕のある会社」というイメージを持たれることがあります。
しかし実際に行われているのは、人を増やす経営ではありません。
象徴的な例として、Patagoniaの取り組みがあります。
Patagoniaは企業内保育を含む育児支援を行っていますが、それを単なる福利厚生として語ってはいません。
同社が重視したのは、育児期に優秀な社員が離職してしまうことによる損失でした。
採用や育成にかけたコスト。
長年積み上げてきた経験やノウハウ。
それらが育児を理由に失われてしまうことこそが、経営にとって最大の損失である。
そう捉えた結果として、辞めずに働き続けられる仕組みと、戻ってこられる環境を整えたのです。
これは、人件費を増やしたのではなく、人が辞めることで発生する無駄なコストを減らしたという経営判断でした。
日本企業でも、「支援」と「効率化」は同時に進められている
日本でも、育児・介護に向き合う企業の多くは、支援と同時に組織の見直しを行っています。
日本経済団体連合会が紹介する事例では、育児や介護への対応をきっかけに、業務の標準化や属人化の解消を進めた企業が紹介されています。
特定の社員しか分からなかった業務を見える化し、チームで共有できる形にした。
会議や承認プロセスを見直し、意思決定のスピードを上げた。
また、経済産業省が示す事例では、育児・介護と仕事の両立を「人的資本への投資」と位置づけ、管理職が迷わず判断できるよう判断基準を明確にした企業が紹介されています。
現場の摩耗を防ぎ、結果として離職率の低下につながったケースもあります。
支援だけを増やしている企業は、ほとんどありません。
育児・介護への対応は、組織のムダや弱点を見直すきっかけとして使われています。
おわりに

希望とは、「法を守りながら、現場が潰れない経営」を実現すること
育児・介護に向き合う経営は、理想論ではありません。
法を守りながら、現場が潰れない形を模索する、極めて現実的な経営課題です。
そして、ここまで述べてきた取り組みを機能させるために、もう一つ欠かせない前提があります。
それは、社員が会社を信頼し、自身の機微な個人情報を託せる関係性があるかどうかです。
育児や介護の状況は、とても個人的で、言葉にしづらいものです。
それを早い段階で共有してもらえるかどうかは、制度の有無ではなく、「この会社なら大切に扱ってくれるだろうか」という信頼にかかっています。
社員が安心して話せるから、管理職が早く動ける。
管理職が早く動けるから、経営は小さな調整で済む。
その積み重ねが、結果として組織を守ります。
もし、社員の立場から育児・介護と仕事の両立について知っておいてほしいポイントを整理した記事をお探しであれば、
https://mental-progress.com/work-childcare-caregiving-mental-health/
も参考になるはずです。
経営者が覚悟を持ち、管理職が安心して判断でき、社員が信頼して相談できる。
その循環が生まれたとき、育児・介護への対応は、負担ではなく組織を強くする力に変わっていくのではないでしょうか。
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