育児・介護と仕事、自分を守るために知っておきたい考え方 「迷惑をかけたくない」が、心を追い込む

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「個人の頑張り」に任せ続けた結果、何が起きているのか

「できるだけ職場に迷惑はかけたくない」
育児や介護と仕事を両立しようとするとき、多くの人がまずそう考えます。
実際、これまで真面目に働いてきた人ほど、その思いは強いかもしれません。

けれど、その気持ちだけで踏ん張り続けた結果、心が追い込まれていく人が後を絶たない。
これは気合や性格の問題ではなく、データが示す社会構造の問題です。

厚生労働省の調査によると、日本の労働者の 68.3% が、仕事や職業生活において「強い不安・悩み・ストレスを感じている」と報告されています(厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」)。
つまり、働く人の 3人に2人以上 が、すでに高い心理的負荷を抱えながら日々を過ごしているのが現実です。

この状態に、育児や介護というライフイベントが重なると、負担は一気に個人へ集中します。
たとえば介護について見ると、仕事を続けながら家族の介護を担う人は数百万人規模にのぼり、介護・看護を理由に毎年およそ10万人以上が離職している というデータがあります(総務省「就業構造基本調査」)。

さらに国内研究では、介護を担っている人ほど 心理的ストレスや精神的苦痛が高い傾向 があることも示されています。
これは、介護が時間的な負担だけでなく、心の負担として積み重なっていくことを意味します。

こうした状態が続くとどうなるか。
約13.5%の事業所で、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由とした1か月以上の休業または退職が発生している という報告があります(厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」)。
また、日本では、欠勤やプレゼンティーズム(出勤していても生産性が下がる状態)を含めた メンタルヘルス不調による経済的損失が年間約7.6兆円にのぼる と推計されています(産業医科大学 森晃爾教授らの研究)。

これは、「一人ひとりが頑張れば何とかなる」という話ではありません。
育児や介護と仕事の両立を、個人の我慢や自己犠牲に任せ続けることが、本人の心だけでなく、企業や社会全体の力を削っている という現実です。

それでも職場では、「迷惑をかけたくない」「自分が踏ん張ればいい」という思いが先に立ち、制度や相談が十分に使われないまま問題が深刻化していきます。
この記事では、こうした 客観的なデータが示す現実 を前提にしながら、育児介護休業法の考え方と、一般社員が自分を守りながら働き続けるための視点を整理していきます。


育児・介護は「特別な人」の問題ではない

育児や介護に直面すると、「なぜ自分だけがこんなに大変なのだろう」と感じてしまうことがあります。
しかし、共働き世帯が当たり前となり、親の高齢化も進む今、育児や介護と仕事の両立は 誰にでも起こり得る現実的な課題 です。

それにもかかわらず、職場では「例外的な事情」として扱われやすく、当事者が遠慮や罪悪感を抱え込んでしまう場面が少なくありません。
まず大切なのは、育児や介護は 個人の問題ではなく、働く誰もが直面しうるライフイベント だという前提を、自分自身が持つことです。


育児介護休業法は「我慢する人」を前提にしていない

育児介護休業法は、「特別に配慮してもらう人のための法律」ではありません。この法律が守ろうとしているのは、育児や介護を理由に、働き続ける選択肢が狭められないことです。

制度を使うことは甘えでも、わがままでもありません。
働き方を調整しながら仕事を続けるための、社会的な仕組みです。それでも、「使ったら評価が下がるのでは」「周囲に迷惑をかけるのでは」という不安から、制度利用をためらう人は少なくありません。

ここで知っておいてほしいのは、制度の利用と仕事上の評価は切り分けて考えることが、法律上求められている という点です。この前提を知るだけでも、漠然とした不安は少し整理されていきます。


マタハラ・育児ハラ・介護ハラは、なぜ起きるのか

マタハラや育児ハラ、介護ハラは、特別に悪意のある人が起こしているとは限りません。
相談の現場で多く見られるのは、不安や戸惑い、前例のなさが重なった結果として起きているケースです。

当事者は「迷惑をかけたくない」と遠慮し、周囲は「どう関わればいいか分からない」と距離を取る。その沈黙が続くことで、すれ違いが調整されないまま固定化していきます。
ハラスメントは、「された・した」という二択で捉えるよりも、すれ違いが放置された結果 として理解した方が、解決の糸口が見えやすくなります。


本来やるべき行動が、自分を守り、ハラスメントの芽を減らす

育児や介護と仕事を両立する場面で大切なのは、「問題を起こさないこと」でも「耐え続けること」でもありません。
本来、会社と共有すべき情報を、適切なタイミングで、適切な相手に伝えること
それが結果として、自分の立場や評価を守り、ハラスメントが生まれる確率を下げます。

まず重要なのは、育児や介護という 事実が発生した時点で、できるだけ早く、直属の上司や人事・労務担当など、会社として判断・調整できる立場の人に共有することです。
同僚への雑談や独り言では、会社としての配慮や調整は行えません。
事実が共有されていない状態では、配慮不足や評価に関する誤解が生じやすくなります。
早めの共有は迷惑行為ではなく、後から大きな問題になることを防ぐための正当な行動です。

次に知っておいてほしいのが、制度利用と評価の関係です。
「制度を使ったら評価が下がるのでは」という不安は自然ですが、育児介護休業法が企業に求めているのは、制度を利用したという理由だけで不利益な取り扱いをしないこと
これは努力目標ではなく、企業に課されたルールです。
この前提を知ることで、「何がNGで、何が評価対象になるのか」が整理され、漠然とした不安は具体的な理解に変わっていきます。

そしてもう一つ。
育児や介護は、「困ってから」相談するのでは遅いケースが少なくありません。
事実が生じた時点で、将来起こり得る制約も含めて相談すること
これは自己主張ではなく、リスク共有であり、結果的に職場との信頼関係を守る行動です。


社外の視点(EAP)が役に立つ理由

「会社に相談した方がいいのは分かっている。でも、正直怖い」
特にストレスの高い職場で働いている人ほど、そう感じやすいかもしれません。
評価への影響や人間関係の悪化を恐れて、相談そのものがハードルになってしまうこともあります。

そんなときに役に立つのが、社外の視点です。
EAP(従業員支援プログラム)や社外相談窓口は、会社の評価や人事判断とは切り離された立場で、あなたの話を整理するための存在です。いきなり会社に伝える必要はありません。
まずは社外で、今の状況や不安を言葉にし、自分の考えを整えるだけでも構いません。
そのプロセスが、結果的に会社との対話をしやすくし、不必要な誤解や衝突を避ける助けになります。


我慢し続ける以外の選択肢がある

育児や介護と仕事の両立について、「相談した方がいい」と頭では分かっていても、実際には動けない人も多いと思います。
今はまだ何とか回っている、これ以上迷惑をかけたくない、相談して状況が悪くなったらどうしよう。そ
う感じるのは、弱さではありません。それだけ真面目に仕事と向き合ってきた証拠です。

ただ、我慢を重ねるほど、心身の負担は静かに積み上がっていきます。
育児介護休業法や各種制度は、限界まで耐えた人のためだけにあるのではありません。
無理をする前に、働き方を調整するための仕組みです。

会社に直接言えなくても構いません。社外の相談窓口やEAP、カウンセリングといった選択肢もあります。
一人で答えを出さなくていい。
一人で抱え続けなくていい。
この記事が、「相談してもいい」「守られていい」と感じるきっかけになれば幸いです。

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この記事を書いた人

職場や生活で強い不安やストレスを抱えてお悩みのあなたを、企業経験30年(人事労務を担当した15年ではメンタル不調者への産業医と連携した対応経験が豊富)、メンタルクリニックでの患者さんへのカウンセリングによる支援、社外メンターとしての成長支援、SNS相談員として命と心、LGBTQなどの相談対応などの経験をベースにサポートいたします。

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