次の表は、厚生労働省が3年おきに出している患者調査の資料から抜き出したものですが、精神及び行動の疾患の患者数は2005年をピークに減少しているのに、気分「感情」障害が増加しています。
1996年の値を100とした時の、各年の変化をグラフにしたところ、気分「感情」障害の増加が顕著なのが見て取れますね。
この記事を投稿した2022年2月時点では、2020年の統計は出ていませんが、私の肌感覚ですが、コロナ禍での閉塞感や将来不安を抱えている人は減少しているとは感じませんので、この傾向は今も続いていると考えても良いと考えています。
この傾向について、医師で寄生虫学がご専門だった藤田紘一郎氏(東京医科歯科大学名誉教授で昨年5月14日に死去。詳しくはウィキペディアをご参照ください)は著書「心の免疫学」の中で、日本が世界一清潔な国になったことがその原因の一つだと書かれています。
藤田先生は15年にわたり自分のお腹にサナダムシを寄生させて免疫の研究をなされたエピソードが有名で、テレビにも出演されていた方なので、ご存知の方も多いかも知れませんね。
さて、藤田先生はその著書の中で、我々の生活を清潔に保つための除菌・抗菌グッズが身の回りに溢れることにより、日本は世界で最も清潔な国になったが、その反面、有害な菌が体内への侵入を防ぐだけでなく、身体に有益な細菌が安心して棲めない腸内環境を作り出してしまったと訴えています。
さらに、生活の欧米化により腸内細菌の餌となる食物繊維、オリゴ糖、乳製発酵食品の摂取量が減少し、腸内細菌が嫌う保存料や添加物を多く含んだ加工食品やジャンクフードを好んで食べるようになったことが、腸内細菌が過酷な腸内環境で生きることをより難しくしているとも仰っています。
それではなぜ、腸内環境の悪化による腸内細菌の減少が、気分「感情」障害の増加を招くのかを解説していきます。
我々が不安を感じず穏やかな気分でいられたり楽しい気持ちになれるのは、精神を安定させる働きのあるセロトニンや、興奮した神経を落ち着かせたりストレスを緩和するγーアミノ酪酸(GABA)、そして喜びや快楽などを感じさせるドーパミンといった脳内神経伝達物質のおかげです。
よって、これらの脳内神経伝達物質が減少すると、心は不安や悲しみ怒りなど不快な気持ちを抱えることになります。
そして、そのような気持ちを抱え込んだままでいるとメンタルが不調をきたし、改善されなければメンタル疾患となる可能性が高まります。
セロトニン、ドーパミン、γーアミノ酪酸(GABA)といった脳内神経伝達物質の原料となるのがタンパク質で、そのタンパク質から脳内神経伝達物質の産生の過程で腸内細菌が大きく関わっているのです。
タンパク質は口から摂取されると、カルシウムとビタミンCと胃酸によりアミノ酸に分解され、20種類のアミノ酸が産生されます。
そのアミノ酸の中の、トリプトファンがセロトニンに、フェニルアラニンがドーパミンに、グルタミンがγーアミノ酪酸(GABA)になります。
そして、各アミノ酸からそれぞれの脳内神経伝達物質になる際に、ビタミンB群やビタミンM(葉酸)が必要となるのですが、そのビタミンB群やビタミンM(葉酸)の産生に腸内細菌が大きく関わっているのです。
つまり、腸内細菌がなければセロトニン、ドーパミン、γーアミノ酪酸(GABA)が体内で産生されず、精神を安定することが難しくなるということになります。
それでは、現代人に不足しがちな腸内細菌を増やすために、そして心を安定させる神経伝達物質を増やすためにどうすればよいのでしょうか?
1)腸内環境を改善するために善玉菌を多く含む食品を摂取する
発酵食品やオリゴ糖、ビフィズス菌、乳酸菌等
2)腸内細菌の餌を増やすために食物繊維を多く含む食品を摂取する
・穀類 玄米、胚芽米、麦めし、とうもろこし
・豆類 煮豆(大豆、うずら豆、あずき)、 納豆、おから
・芋類 さつまいも、里いも、こんにゃく
・野菜 ごぼう、ふき、セロリ、アスパラガス、青菜類、キャベツ、白菜
・果物 柑橘類(みかん、グレープフルーツなど)、 バナナ、うり類
・きのこ類 しいたけ、しめじ、えのき
・海藻類 わかめ、寒天、ところ天
3)神経伝達物質の原料となる食品を摂取する
・トリプトファンの原料となる食品
◯豆腐、納豆、味噌、しょうゆなどの大豆製品
◯チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、米などの穀類など
・フェニルアラニンの原料となる食品
豚もも肉、鳥ささみ、マグロ、カツオ、アジ、大豆、小豆、
カシューナッツなど
・グルタミンの原料となる食品
鳥もも、牡蠣、黄卵など
4)適度な運動
5)ストレスを溜めない
が必要になります。
コロナ禍で手指消毒が徹底される今だからこそ、腸内環境を守り腸内細菌を増やすため、特に食事には気をつけたいですね。
苦しい気持ちをありのまま受け止め、あなたの味方となり一緒に考えます。
お気軽にご相談ください。
コメント